職場における多くの問題は、行動が意図した通りに機能していないことに端を発します。そこで有効なのが、認知行動療法で用いられる ABCモデル(A:きっかけ、B:行動、C:結果) の視点です。
これは、ある行動がどのような状況で生じ、どのような結果をもたらしているかを整理し、行動パターンそのものを変えることで、より望ましい結果につなげる ための枠組みです。
事例:指示を受けても着手できない新人
新卒のCさんは、上司から依頼された仕事に対して「はい、やります」と返事はするものの、その後なかなか行動に移れません。周囲は「やる気がないのか」と誤解しがちですが、実際には “質問して迷惑をかけるかもしれない”という不安 を抱えており、それが行動を止めていたのです。
専門家としての分析
このケースをABCで整理すると、次のようになります。
- A(きっかけ)
依頼された業務内容が曖昧に感じられる場面 - B(行動)
不安が強まり、行動を保留する・質問しない - C(結果)
作業が進まない → 周囲からの誤解 → 自信の低下
重要なのは、Cの「望ましくない結果」が、再びAやBに影響を与え、
“行動しないパターンが強化されてしまう” ことです。
CBTでは、このサイクルを切り替えるために 行動(B)に働きかける ことを重視します。
行動を小さく変えることで、新しい結果(C)が生まれ、
それが認知や次の行動へとフィードバックされていきます。
この“交互作用の循環”こそが、持続的な変化につながります。
ポイント
マネジャーが介入できる最初のポイントは「行動(B)」です。
たとえば以下のような手順が効果的です。
- 「まず一文だけ質問する」など、小さな行動目標を設定する
質問行動が増えることで、C(結果)が「できた」「聞いてよかった」という成功体験へ変わります。 - 事実に基づいて結果を一緒に振り返る
「質問しても大丈夫だった」という新しい結果が積み重なり、次の行動が変わります。 - 行動→結果→認知の順で変容が起こることを理解する
認知そのものを直接変える必要はありません。まず行動を変えることで自然と見え方が変わっていきます。
部下の問題行動に見えるものの多くは、
「望ましくない行動が、そのまま強化されているパターン」にすぎません。
ABCモデルを活用し、小さな行動変化から結果を変える支援 を心がけることで、
部下自身も新しい自信を獲得し、組織全体のコミュニケーションが円滑になっていきます。