介護スタッフが施設や訪問場面において体験しがちなカスハラとして、利用者との物理的距離が近いことから、介助要求を装った不適切な身体接触や、性的な言動によるセクシャルハラスメント(セクハラ)が挙げられます。
基本シーン
入浴介助や排泄介助の際、不必要に体に触れてきたり、「今日は一段と綺麗だね」「彼氏はいるの?」といったプライバシーに踏み込むような発言を繰り返したりする場面です。断ると「その程度の言葉に目くじらを立てるな」「感じが悪い」と逆ギレされてケアの妨げとなったり、密室であることを利用して行動を止めようとしないケースもあります。
スタッフは「お年寄りだから」「これも仕事だから」と自分を納得させようとしますが、行動の性質上、口に出すこと自体に抵抗を感じ、誰にも言えずに孤立を深めてしまうことが多いのが実態です。
専門家としての分析
これは相手を対等な人間としてではなく、自分の欲求を満たすための対象として認知している状態です。
加害者側には「金を払っているのだから、これくらいのサービス(甘え)は許される」という歪んだ特権意識があります。
認知行動療法の視点では、こうした行為を放置することは、加害者の「やっても大丈夫だ」という誤った学習を強化することにつながり、行為の繰り返しを促してしまいます。
また、被害を受けたスタッフは「自分が隙を見せたせいだ」と自責の念に駆られることもありますが、これは明確な加害者による人権の侵害であり、被害者個人の責任では決してありません。
対応のポイント:沈黙を破る「NO」の共有
性的な言動、セクハラに対しては、できるだけ初期段階での毅然とした拒絶が欠かせません。
「そのようなことをなさると、次からサービスの継続が難しくなります」と、心理的・物理的な距離を保った状態でまずは相手に伝えましょう。ここでは感情的にならず、事実に基づいた警告を自分の立場として伝える必要があります。
また組織側としても、このような場面では現場スタッフが一人で抱え込まないよう、日頃から少しでも違和感があればすぐにサービス提供責任者に報告できる「心理的安全性の高い組織づくり」が最優先です。
Q&A
Q:利用者さんの認知症の症状(BPSD)かもしれないと思うと、強く言えずに我慢してしまいます。
A:症状があるからといって、あなたの尊厳が踏みにじられて良い理由にはなりません。
たとえ病気や認知機能の低下が背景にあっても、スタッフが性的な被害を受けるような事態が起こってはなりません。
ケアの本質は、利用者側と支援者側がお互いの人間性を尊重する点に存在します。
あなたが傷つきながら続けるケアは、長期的に持続することが不可能となります。
支援者側が自分の心を守るために「これはハラスメントである」と正しく認知し、速やかに組織に報告すること。
これが他の支援者を守ることにもつながり、その事例を通してケアプランの見直しや対策を講じることが、結果として適切な介護環境を守ることにつながります。
