職場の中では「自分がどう評価されているか」に意識が向きがちです。しかし行動科学の視点から考察すると、人はそれ以上に他者がどう扱われているかを観察しながら、自分の行動を決めています。
このように、メンバーの行動は個人の体験だけではなく、チーム全体で共有される学習の結果として決定されていくのです。
事例
定例会議で、マネジャーが意見を求めた際、Gさんが発言しました。
「今のやり方ですが、別案も検討できると思います」
その直後、マネジャーは少し眉をひそめ、こう返します。
「それって、これまでの文脈を踏まえて考えてる?もう時間もないのに」
場の空気が一気に張り詰めました。他のメンバーは視線を資料に落とし、誰も口を開きません。
会議後、若手のHさんは同僚にこう言いました。
「自分から言わなくて正解だった。ああなるの、見てて怖いよね」
次の会議では、意見を求められても誰も手を挙げませんでした。
専門家としての分析
この職場では、発言したGさんだけでなく、それを見ていた全員が行動を学習しています。
行動科学では、他者の行動とその結果を観察することで行動を学ぶことを「モデリング」と呼びます。
Gさんの発言に対して返ってきた結果は、「遮られる」「場が緊張する」というものでした。この結果を観察したメンバーは、「発言すると損をする」「黙っていたほうが安全だ」という行動ルールを学習します。
その結果、発言しない行動がチーム全体で強化されていきます。
心理的安全性が低い職場では、問題となるのは個々の勇気不足ではありません。どの行動が報われ、どの行動が罰せられているかが、はっきりと示されているのです。
ポイント
- 発言者がどんな結果を受け取っているかを意識する
- 挑戦行動が「得をする」場面を可視化する
- マネジャー自身がモデル行動を示す
心理的安全性は、観察可能な結果の連鎖としてチームに広がります。マネジャーの立場からは、発言を強化するために、発言者にポジティブなフィードバックを与え、チャレンジを奨励する環境を作る必要べきでしょう。
今回のキーワード:モデリング
モデリングとは、他者の行動とその結果を観察することで学習が起こる仕組みです。職場では、誰がどう扱われているかが共有され、それがチーム全体の行動基準を形づくります。
