病院などの医療現場では、患者さんやご家族が抱く病気への恐怖や死への不安が、最も身近な支援者であり、頼りにしている看護師への攻撃に転嫁されやすいという状況になりがちです。
基本シーン
ナースコールで呼び出され、訪室した瞬間に「さっきから何度も呼んでいるのに、なぜすぐ来ないんだ!」「お前じゃ話にならない、担当医を今すぐ連れてこい!」と怒鳴られる。
また、ドクターの処置が順番となることに待ちきれずに「お前のせいで俺が後回しになるんだろう」と詰め寄ったり、医師でないと回答できないような、処置に関する専門外の領域まで執拗に説明を求め、答えに窮すると、罵倒されたり人格否定をしたりするケースも見られます。
専門家としての分析
臨床心理学の観点では、これらは患者が自身の弱さを隠すための「防衛的攻撃」です。
相手の「心のコップ」が、自身の感情を受け止めきれず、不安が溢れ出したとき、身近で「なんでも聴いてくれる」役割を担ってくれると捉えられている看護師が、感情をぶつける対象になりがちです。
認知行動療法では、この怒り感情は看護師個人への評価ではなく、相手の頭の中にある「~すべき思考(看護師ならすぐ来るべきだ等)」という思い込み(認知の歪み)が引き起こした感情的なエラーであると考えます。
対応のポイント:プロとしての境界線と感情労働のケア
どんな時でも自分の感情を押し殺して笑顔で患者さんに接し、相手の感情を汲み取らなくてはならないという感情労働。
この負担は、想像以上に見えないストレスを蓄積させます。
いったん客観的に自分の状況を捉え直し、看護師として果たすべき誠実さと、自己犠牲を伴う行為は切り離して行動しましょう。
大切なのは「ここまでは対応するが、ここからの理不尽な要求にはNOと言う」という心理的な境界線(バウンダリー)を確立しておくこと。
いくら患者さんとは言え、いわれのない怒鳴り声が始まったら、内容に反応せず「声の大きさ」という事実に注目し、物理的に一歩下がり、自己の精神状態を見つめ直すなどの「心の護身術」を技術として習得することが重要です。
Q&A
Q:患者さんは病気で苦しんでいるのだから、多少の暴言は私たちが受け止めるべきではないでしょうか?
A:決してそんなことはありません。
就労環境の悪化が引き起こす心身の不調は、看護側にとって本来守るべきケアの実現を困難にする障害となり、カスハラの最も重大かつ避けるべき影響です。
理不尽な攻撃を浴び続けると、身体がストレスから自分を守るために、涙が出たり動悸がしたりする「正常な危険信号」を発します。
無理に耐え忍ぶのではなく、早めに管理職や組織に報告し、まずは看護師として「安全な環境」を確保することを最優先してください。
