第1回:職場ストレスを乗り切るマネジメントスキルとは(その1)

嶋田 洋徳 先生(早稲田大学人間科学学術院 教授)

今回からは,早稲田大学人間科学学術院教授の嶋田洋徳先生に職場ストレスへの有効な対処方法についてお伺いします。嶋田先生が取り組まれた数々の研究は、国内外で高い学術的評価を得ており、大学だけでなく官公庁をはじめ全国各地の現場で活躍されています。現在は日本ストレスマネジメント学会,ならびに日本認知・行動療法学会の理事長も務められており,ご多忙な間を縫ってのインタビューとなりました。

―まず,一般的に職場ストレスというときには,どのようなものを指すのでしょうか?
嶋田:大きく分けると,職務そのもののストレッサー(ストレスの原因)と,人間関係のストレッサーの2種類が挙げられます。過剰な仕事量や,本人のスキルに見合わないような質的に困難な業務を抱え込み続けた結果,抑うつ状態など,心身への影響が出やすくなってきます。それに加えて,毎日顔を合わせなくてはならない上司や同僚,部下などとのコミュニケーションのトラブルは、逃げたくても回避することが難しく,そのうち大きなストレッサーとなってしまうことがあります。

早稲田大学人間科学学術院 教授  嶋田 洋徳 先生

―そうなんですね。このような職場ストレスについては,先生がご専門の認知行動療法が有効であることが学術的にも証明されていると伺いました。
さらに職場ストレスに関する課題として、最近特に目立つのはどんなことでしょうか?
嶋田:最近は働き方改革の浸透により,残業時間の減少や有給休暇の取得について企業が積極的に取り組むようになってきました。その反面,労働時間が減っても仕事量はそのままであることも多いため、一人当たりの負担がかえって大きくなるという悪循環に陥る原因ともなっているようです。そこに少子高齢化などの社会構造の変化が人手不足をもたらしていることも影響しています。また、近年自閉スペクトラム症やADHDなどの成人の発達障害に起因するとみられる職場の問題が注目されるようになり,そのような特性を持つ方々とのコミュニケーションの難しさもよく話題に上っています。
―ニュースなどでも取り上げられることの多い職場の課題も,心理的な側面から見直すことで,新たなブレイクスルーが見つかりそうですね。

(次回に続く)